地震保険を語る

(第七回)二つの貯金箱

 日本は、世界の中でも類まれな地震の巣の上にある国である。地震保険は、政府の再保険引き受けというバックアップを得て、恐々(こわごわ)の状態で誕生した。しかしようやく民間保険会社としては、国民が抱える地震リスクに対し、保険を提供することができるようになった。
 では、保険会社は、地震保険で利益を得ることができるのだろうか。答えは否である。簡略化して言うと、保険契約者が支払う地震保険料は、保険会社に使われることなく、利益にされることもなく、すべてが貯め続けられることになっている。貯める先は、民間の日本地震再保険株式会社と政府の地震保険特別会計の二つである。つまり、地震保険料は個別の保険会社に留め置かれることなく、常に民間と政府の二つの「貯金箱」に納められ、地震が発生した際にのみ、この二つの「貯金箱」から保険金が支払われるという仕組みになっている。
 東日本大震災では、1966年(昭和41年)以来ずっと貯め続けたお金が民間と政府合計で約2兆4千億円あり、ここから1兆2千億円強が支払われた。まだ1兆2千億円近く残っており、東日本大震災の後にも、新たに地震保険の契約がされる都度、「貯金箱」のお金は少しずつではあるが貯まり続けている。
 ここで一つ疑問が生まれるはずだ。「貯金箱」のお金では足りない大地震が起こったらどうするのか、という疑問だ。この場合には、政府の「貯金箱」(地震保険特別会計)については一般会計から借入れを行い、民間の「貯金箱」については、政府が資金の斡旋・融通に努めることになっている。つまり、政府が二つの「貯金箱」に別口のお金を継ぎ足すことで急場をしのぐのである。そして、この借入れ部分は、その後新たに入ってくる地震保険料を使って返していくことになる。
「地震のときは保険会社も経営が危なくなって支払えない」というような心配は無用の仕組みとなっているのである。 (文責個人)

日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史