地震保険を語る

(第十二回)将来に向かって、最初の一歩

 関東大震災も、阪神淡路大震災も、東日本大震災も、そして狭い地域に限定された地震でも、大地震は、被災者からすべてを奪う。子どもから親を奪い、親から仕事を奪い、家族から住んでいる家と家財を奪う。津波によって車も奪う。地震が人から奪うのは家と家財だけではない。
 「地震保険に関する法律(地震保険法)」の第一条には、地震保険は「地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする」と書いてあり、家の建て替えや家財の再購入のための保険とはされていない。地震保険は、家と家財に付けるものの火災保険とは異なる考え方を持つ保険なのである。
 しばしば批判されるが、現在の地震保険は、補償内容に限界があり、家や家財についてさえ元のままの形に回復する内容にはなっていない。しかし、この保険は、過去に蓄積した家や家財を取り戻すためには不十分であっても、被災者が、亡くなった家族の葬儀を行い、避難所からアパートに移り、例えば中古の軽自動車を買い、極めて大きな心の傷を負った子どもにほんのささやかな娯楽を与えるといった、将来の生活に向かって最初の一歩を踏み出すためには大きな価値を持っている。そして、東日本大震災において地震保険は、まさに本来の役割を発揮したのである。
 東日本大震災によって、改めて明らかになった地震保険の改善点は数多くある。もちろん、日本の地震リスクの巨大さのために、政府の再保険は今後も必要不可欠だ。そして、補償内容にも様々な制限が付くことを避けることはできない。
 しかし、あれだけの大震災において1兆2千億円もの保険金を短期間に支払いながら、破綻する保険会社が出ることで保険契約者や株主に迷惑をかけることがなく、海外でも日本の地震保険は高く評価されている。地震保険を制度としてこれからも守り、いっそう強靭なものにしていくための新たな歩みが、確実にまた日本のどこかに来る大震災に向かって、今、求められているのである。 (文責個人)

日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史