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日本人とは何か

第30回 絶滅の危機クロマグロと行政の体質

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2017年8月26日

マグロとは

日本人になじみの深いマグロには、寒冷な海を好む「温帯性マグロ」と暖かい海を好む「熱帯性マグロ」がある。温帯性マグロには、北半球のクロマグロと南半球に生息するミナミマグロがある。クロマグロは大西洋クロマグロと太平洋クロマグロがあり、後者は北半球をフィリピンと台湾沖から太平洋岸と日本海を通過して、米大陸沿岸のメキシコ半島沖まで回遊する。

熱帯性のマグロではカツオ、キワダマグロとメバチマグロである。世界のマグロ類の生産量は521万トン(2014年)であるが、大部分がカツオで300万トンを占める。日本人が大好きなクロマグロと南半球のミナミマグロを入れても世界の漁業生産量はわずか5万トンである。


マグロ食の歴史

刺身が食卓に上ったのは、コールド・チェーンが発展した1970〜80年代以降である。それまではトロの部分も腐敗の進行が早く褐変しマグロは下魚の扱いをうけた。現在では日本人の食文化の扱いをされるが、その歴史は最近30〜40年のことである。

そのクロマグロをめぐって、日本は世界の反感を招き、信用を失墜しかねない瀬戸際にあるが、水産行政、政治、流通と漁業者も切迫感がみられずに、規制措置を逃れて、漁獲増大できるかに腐心している。


大平洋クロマグロの韓国で国際会議

8月28日から韓国で第13回中西部漁業委員会(WCPFC)の北委員会が開催される。この委員会は太平洋クロマグロを管理する。太平洋のクロマグロは歴史的に見ても最低の資源の水準で、あわや絶滅の危機にある。

大平洋クロマグロには他の国際機関が採用している科学的根拠に基づく漁獲規制量(ABC)や総漁獲可能量(TAC)とは異なる規制が日本の一方的な努力目標として導入している。国際合意でなく、拘束力もない。数値目標が設定されないことは科学委員会グループも問題視している。また、科学委員会を日本の科学者が委員長も務め、現在まで北委員会は日本人が議長を務めている。そんなにまでして日本の漁業者の短期的利権を守りたいものだろうか。

本委員会がカツオ、メバチマグロの議論では独立したSPC(太平洋委員会科学部門)に科学評価を委ねその後各国の科学者が検討するのに比べ、クロマグロの科学評価は日本の科学者が中心である。現在のクロマグロの資源状態は初期の資源量のわずか2.6%の状態で、7〜10%の水準まで下がったものは本来漁業や貿易は禁止である。北西太西洋のクロマグロが付属書1への提案をなされたころの同資源はこの7〜10%水準であった。


旧態依然の水産行政

米国内の新聞では「今回の北委員会が責任ある漁業管理に合意しなければ太平洋クロマグロ漁業を禁止し、太平洋クロマグロを食べるのをやめるべきだ」という論調が目立ってきた。

今回の日本の北委員会での提案は、少しでも回復傾向が見られたら漁獲量を増やせとのもので、科学的に見れば笑止に堪えない。日本提案では資源が増えても世界の禁漁水準の7%以下にしか回復しない。日本の水産庁は漁業者の願望をそのまま聞き入れることを行政と錯覚している。漁業者が「魚がたくさんいればもっと獲らせろ。いなければさらにもっと獲らせろ」というのは世界中どこでも同じである。このような願望を、科学と理をもって説得するのが政府の役割である。

水産行政は本当に問題だ。資源の極端に悪いクロマグロは漁獲を解題したいという。資源がたくさんいるミンククジラやニタリクジラは捕鯨の再開を事実上放棄し調査捕鯨の頭数も削減した。双方とも科学的根拠に反する行動だ。サンマもするめいかもサケもホタテ貝も壊滅的に減少した。これらも欧米のような科学的根拠に基づいた管理をおこったたつけである。

世界の水産行政と科学に逆行しているのが今の水産行政であろう。旧態依然の組織の限界であろうか。それでも西洋のような資源管理は日本には向かないと、知りもしない勉強もしないで農林水産省と水産庁のトップが平然と語る。困ったものである。



築地での巻き網で漁獲した夏のクロマグロのセリ 著者撮影


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