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日本人とは何か

第35回 江戸前とは何か

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2017年11月27日

江戸前とは

江戸前という言葉には妙にひかれる響きがある。私は岩手県の生まれであるので、江戸と東京にあこがれた。しかし、江戸前のすしとか江戸前の天ぷらとかの名前はあるが、江戸前とは何かという解説をした書物に出会ったことがなかった。江戸前寿司は関西のバッテラや滋賀県琵琶湖特産のフナの押しずしとは似ても似つかぬもので、それがどうして江戸前というのか多くの人に尋ねたが、答えは返って来ない。自分で調べるしかないと思い立って、江戸前に関する本を出版した。最初は「江戸東京湾くじらと散歩 東京湾から房総・三浦半島をたずねて」(ごま書房、2004年)、その後「豊かな東京湾 甦れ江戸前の海と食文化」(雄山閣、2007年)である。

江戸前とは御城・江戸城の前で、現在の東京都の前の海のことで、江戸前の魚はそこで獲れたもの。それらの魚介類を材料にしたものが「江戸前寿司」や「江戸前の天婦羅」という意味である。

東京湾は本当に豊かな海だった。自然の生産力と生態系が私たち日本人に自然の恵みと心の豊かさを提供する海だったが、埋め立てが明治から規模を拡大し1964年東京オリンピックの開催に合わせて、東京湾と東京の街はコンクリートで埋められた。高速道路と空港との便利さとの引き換えに失ったものは自然と生態系だ。東京湾では年間に15万から18万トンの漁獲を上げる漁場だった。これは水産業が盛んな宮城県漁獲量(16万7527トン、2014年)に相当する。それが現在では4~5万トンである。自然と生態系と第1次産業、加工業、流通業と飲食業を失い、未来の世代を含め日本人の健康、精神の影響について深く考ざるを得ない。


豊かな東京湾の再生へ

東京湾の多様な水産物で創意工夫された江戸前の寿司、天婦羅、ウナギ、浅草のりと佃煮も江戸前の原材料でできるものはなくなった。

「豊かな東京湾再生検討委員会」は、当時の神奈川県知事と中田宏横浜市長から農林水産省も「第25回全国豊かな海づくり大会」(2005年10月開催:横浜みなとみらいが会場)の開催を支援してほしいとの要請に基づき、同委員会が水産庁の設置する助言機関として立ち上がった。私は当時水産庁で担当した。それが2004年2月だった。同委員会は漁業の将来や海洋の環境も検討したが、一般の人になじみを持ってほしいとの観点から、分科会として「江戸前の食文化分科会」を設置した。それは、東京湾の再生は、漁業者と専門家だけに任しておくのではなく、首都圏の3000万人に及ぶ一般の消費者や住民を巻き込むことが大切であるとの考え方に基づいた。


東京オリンピックと埋め立て

東京湾は東京オリンピックに合わせて昭和30年代の後半から千葉側と東京都の海面、そして昭和50年代に神奈川県側の埋め立てが始まった。天然の藻場や干潟の90%を失った。現在残っている干潟は盤洲や三枚洲など数えるほどしかない。三番瀬も陸地との連続性を失い、これはもはや干潟ではない。

2020年にも東京オリンピックが開催されるが、一時的使用に膨大なお金かけ、東京湾内のボートレース場など周囲の環境に負荷をかける。

現在では、先進国やブラジルでは、巨大な財政負担から開催や誘致の反対運動が起きている。また2004年のアテネ・オリンピック後にはギリシャが財政破綻しEUと世界に迷惑をかけたことは有名だ。


江戸前の食文化

2005年に第25回「全国豊かな海づくり大会」が開催、天皇陛下と皇后陛下のご臨席を賜り、成功裏に終了したのちも、分科会は委員の強い希望により「江戸前食文化会」として今日まで続き、今日2016年10月12日で記念すべき50回の会合を迎えた。2017年11月1日で55回の開催となり、2018年1月にも新年会で江戸前の新鮮な魚をいただく予定だ。この会は最近では江戸前の食を楽しみ味わい、東京湾と水産業の将来を考える目的である。会員数は増加し約30名で、常時参加するメンバーは12~20名と活発である。

これから100回をめざしていきたいものだ。



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