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日本人とは何か

第41回 日本人と脳

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2018年3月15日

脳の科学

2月に、2週間ほど豪州に行ってきて、空港の本屋で偶然に手に取ったのは2冊の脳に関する本である。1冊は脳神経科学者David Eagleman博士が書いた「Brain」(脳)で、脳神経の構造と脳神経に障害の観点から、脳の機能と脳と人間の将来の関係について触れる。

もう1冊は分子生物学者John Medina博士の、脳と健康的老化の在り方について書いたものである。最近リンダ・グラットン教授(ロンドン・ビジネススクール)の著書「100年の人生戦略」を読み老化と脳の機能に興味を持ったことも契機である。


感情的な右脳と論理的な左脳

ところで日本人と西洋外国人の言語と論理的思考と感情・鑑賞力について、日本人は感情及び自然の鑑賞評価力に優れ、外国人は、論理的、論理的な思考にたけるとの違いに接したことがあった。脳の機能に関して論じられ、右脳は感情的能力・機能を司るが、左脳は論理的、言語的能力を司る。日本人は右脳を活用し、西洋人は左脳で言語を司るというものだ。

このため、日本人は感情や文化と人間の機微に関する表現には優れるが、思考や論理的に考えるべきこととそのための言語を右脳で司っているので、ロジックよりも、感情が優先したり、論理と感情を混同する。

典型的な例として、私の捕鯨、マグロの国際交渉で米国、豪、ニュージーランドと激烈な交渉がある。彼らは交渉を交渉で割り切り、その後の付き合いはかえって、激論を戦わしたことで深まった。しかし、私は農林水産省内や日本国内でも交渉の進めをするために、忌憚ない議論をしたが、日本人との関係では、相手方にしこりが残ったようである。私は、外国の生活体験が長く、しこりは残らないが、日本人にはどうも違うようである。

思考を右脳で考える日本人は、論理の論争後に議論でのわだかまりとしこりという感情を断ち切れないためと思う。論理と論争を割り切る外国人と、感情と論理が混同する日本人の差がここに現れるのだろう。

日本人は言語で冷静に表現することが苦手である一方で、感情豊かな抒情的な文学には優れた特性を発揮するのではないだろうか。


脳の発達と人とのつながり

「Brain」を読み脳の奥深さに大変に驚かされる。人間の当たりまえの行動が脳の機能の健全な発展に大いに関係する。ルーマニアのチャウチェスク元大統領下で、「子供をたくさんに産め」政策が取られ、貧しい家庭から、見放された大量の孤児が孤児院に入れられて、面倒を見る人もなく、孤児が泣いても反応しない、話しかける人もいない、その結果、IQが平常の100に対して60~70まで低下した。脳と言語の発達も遅れた。すなわち脳と言語の発達には、周りの人の環境が大切である。

また、人間の脳は、キリン、チンパンジーや野生生物に比べてゆっくりと成長する。馬も牛もライオンの子も生まれてすぐ歩き出すが、人間の子はゆっくりと成長し、すぐに歩き、話しすることはできない。ゆっくり発達するでその間、いろんな能力を獲得することが可能である。生まれ育った環境に即して脳神経のネットワークを発展させる優位性を持っている。環境と時代の変化に合わせた脳と人間性の発達を期待できる。


どうなるあなたの脳と将来

さて現在の日本人は激動する世界の環境において、脳の持つ特性を適切にまた将来を切り開く方向に活用する生き方をしているのだろうか。日本人のDNAが固有のものとしても、時代と環境によってそれらにどう対応していくかで脳の発達が異なることが分かっており、これは時代やどこに住むか、また、どのような姿勢で生きるかによっても日本人の全体と個人の脳の特質が全く異なることを示している。

時代や環境への対応する生き方、逆に時代や環境に対応しない選択によっても脳がそれに応じて違った脳が形成される。これらが脳神経科学と分子生物学によって示される。さて日本人であるあなたはどう生きるか? 自分の脳の将来を決めるのは自分自身である。



イーグルマン著「Brain」(脳)


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