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日本人とは何か

第73回 参議院とさかなクンの帽子と外交

東京財団政策研究所
上席研究員
小松正之
2020年3月5日

マスコミはさかなクンの帽子着用に注目

筆者は2月12日参議院の国際経済と外交に関する調査会に参考人として呼ばれた。他に「さかなクン」と漁業ジャーナリストの片野歩氏も招致された。議場入り口に報道関係者が殺到していた。

筆者は2002年5月下関市で国際捕鯨委員会(IWC)総会の開催時には、過剰な報道陣に囲まれたが、この日はさかなクンのハコフグの帽子が注目点であった。帽子着用で国会議場入場の前例がなく、このことが話題になっての報道陣の過熱ぶりであった。

日本のマスコミとは困ったものである。政策にも外交にも興味がなく、さかなクンの帽子の着用だけが注目された。


議会でのディベートがない

さかなクンは、国会の場で水産政策や外交を語り、漁業法や漁業権に十分で適切な知識を持ちわせているとは思えない。参議院が真に政策と外交について、参考人に助言を求めるならば別の人選があったろう。

議員の中に「帽子をかぶった感想を聞く者」がいたが、限られた時間で、政策検討の場に適切でないし、時間切れで私への質問を割愛した議員も出る始末だ。

国会調査会が、与野党に勢力分野ごとに各10分で質問し、ディベートがないのも議会政治の本場の英国議会と異なる。長い歴史の積み重ねの中で王党派(現在の保守党)と議会派(自由党から現在の労働党)が血を流す内戦と革命を経て確立した国と第2次世界大戦後に英議会制民主主義の入れ物・制度をもらったが、中身は真似ることができない国との違いであろう。議会で政策と外交戦略を構築することは容易ではない。


外交とはいかにあるべきか

筆者は同調査会から「捕鯨の在り方」への説明を求められた。また外交のあり方を問われた。

外交とはその名の通り、「外」との「交わり」である。そして相手国に相対する際には、自国の持っている内容について十分に誠意をもって説明することである。すなわち、対話である。しかし最近の外交を見るにつけ、その基本中の基本である対話を実行しているのであろうかと思う局面が多すぎる。豪から提訴された南極海での調査捕鯨に関する国際司法裁判所での敗訴や国際捕鯨委員会(IWC)と国際捕鯨取締条約からの脱退を見ると誠意を持っての全力投入からは程遠い。米や豪などと十分に話しているとは思えず、国際司法裁判では、判決の前に相手を軽んじた。また、国際捕鯨取締条約からの脱退では、出席したIWC総会で相手は何を言っても聞く耳を持たないとすぐに対話を放棄し脱退した。

従って調査会では「誠意を尽くして、相手国が反捕鯨国であろうと親捕鯨国であろうと中間国の中国や韓国であろうと、常日頃から話し合いを行い、自国の立場を説明することが外交の基本である」と語った。



活発で地道な捕鯨外交を展開 筆者は中央;カリブ、アフリカ、ロシア、太平洋諸国のIWC代表他
2004年4月 千葉房総半島の捕鯨の縁の地を訪ねて


水産外交は科学的根拠と国民への説明と支持

そしてさらに水産外交とは「科学的根拠を柱にそれを丁寧に主張することだ」と述べた。国民への説明とその理解と支持も外交の基本である。科学的な情報の蓄積とそれに基づく政策の形成と実行が大切である。であるならば、科学的調査すなわち調査捕鯨の重要性がますます高まる。調査捕鯨を実施する権利は国際捕鯨取締条約の第8条に根拠がある。条約から脱退してその根拠を失った。

将来は地球温暖化や海洋酸性化が進み、海洋生態系の悪化が懸念される。南極の気温が20度を超えた。豪大陸も南極海の寒流が弱くなって魚類資源の悪化が生じている。このような南極海生態系の変化を知るには同海域での調査捕鯨による新データ収集と蓄積がますます重要になった。


日本はIWCに復帰を

従って、2002年にアイスランドが国際捕鯨取締条約とIWCに再加盟する際に行った前例に倣いIWCが1982年に科学的根拠を無視して採択した商業捕鯨モラトリアム(一時停止)には拘束されないとの条件を付けて同条約に復帰し、海洋生態系変化と温暖化の影響・変化の影響を受ける鯨類を捕獲しての科学調査の実施が重要である。また、商業捕鯨もモラトリアムに拘束されずに実行できる。

筆者は国益と人類の将来のために日本は同条約とIWCに復帰すべきと調査会で強調した。



捕鯨取締条約からの脱退後 寂しいクジラ専門店 大阪福島の大阪中央市場内で2019年7月 著者撮影


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