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日本人とは何か

第85回 やせ細る駿河湾と絶滅の危機サクラエビの漁業(その2)

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2020年12月28日

駿河湾のサクラエビ漁獲が壊滅状態

駿河湾の湾奥に位置する田子の浦と富士川河口付近は、従来サクラエビの産卵場であり、春の漁場である。しかし本年の春漁は26トンであった。11月1日から始まった秋漁も初日に4トンの漁獲があり、12月23日までで約100トンで終了した。ピークには約8000トン(1967年)の漁獲量があり、2020年の秋漁に春漁26トンを合計した年間漁獲量126トンはその1.5%でしかない。世界では禁漁水準である。

この資源は「ワシントン条約」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の基準に照らせば絶滅の危機にある。


陸・河川と海洋生態系との関係を重要視せよ

サクラエビの不漁は、漁業の問題をはるかに超える陸、河川と海洋生態系の問題である。

1890年に富士製紙が汚水を田子の浦に流れこむ潤井川に放流したことに始まり、1970年代昭和製紙工場など由来のヘドロ蓄積と排水の問題で、駿河湾への汚染水と汚染物質が駿河湾の環境をきわめて悪化させた。

現在でも、製紙工場は原料に対して約200倍の水量を必要とする。結局使用後の排水が使用された化学物質を含みながら海洋に流出される。富士地区では田子の浦でダイオキシン類の排出などの環境ホルモンが観察される。

一般社団法人生態系総合研究所は、大井川から駿河湾北海域を流向・流速、栄養(クロロフィル量)、溶存酸素量(DO)、塩分、水温と濁度(FTU)などの基本的科学指標を測定し調査した。

この調査でも田子の浦と日本軽金属株式会社蒲原工場の排水口沖の濁度(化学的汚染物質か)の高さが目立つ。富士川の極少水量、河川敷のシルト・粘土質と富士川の少ない栄養(クロロフィル量)が問題である。サクラエビはこのような環境では禁漁しても資源は回復しないであろう。


駿河湾の流れは三保松原と富士川を結ぶ反時計回り

駿河湾の海洋構造と海流は(図1)、表面流と深海流に分類することができる。表面流は大井川河口付近から駿河湾の湾奥に向かって北上し、富士川と田子の浦付近で沿岸に衝突して、その後に内浦湾に到達する。

一方、内浦湾から流れを発したものは、大瀬崎の北側を西方に向かって流れ、これが三保の松原沖で大井川河口付近を北上してきた海流と合流して北東に流れる。



図1 駿河湾の湾奥他の表面流


これらの海域のクロロフィル量は総じてきわめて少ない0.2~0.3μg/Lであり、内浦湾から栄養塩が由比や田子の浦に運搬されることは考えられにくい。表面流で特徴的なのは日軽金の排水口で上げ潮時に60~70センチ/秒の急速な海流が生じていることで、日軽金の敷地内に海水が取り込まれている。


深海は北に流れる海流;黒潮

50メートル水深では、これらの海層では、駿河湾の太平洋側からの流入海流であるとみられる。(図2)。



図2 駿河湾の50メートル水深の海流図


駿河湾は、大瀬崎と三保の松原を結んだ線上でも水深は1000メートルを超える。これら50メートル水深の深海流では双方ともクロロフィル量は少ない。

北上流は外洋からの流入水、黒潮と考えられる。この北上流のクロロフィル量は0.5μg/Lであり、親潮のそれと比較すると約27%から41%である。やせた海である。

地球温暖化と海洋酸性化が進行すると、海洋の海層の分化が生じるとされ、南方の赤道付近の海域では海底からの栄養の補給が十分に行えずに貧栄養化し、漁獲量も減少すると推定されている(2019年9月国連海洋と雪氷圏に関する報告書)


陸・川と海を考えた解決策を

富士川と田子の浦海域には、内浦湾からも、黒潮;外洋水からも栄養の補給は期待ができない。栄養補給は、河川からの栄養塩であると考えられるが、現在では富士川水系の栄養;クロロフィル量は大きく減少し、濁度が高く、化学物質による河川の汚染が進行しているとみるのが妥当である。したがって陸上と河川の環境を回復させないと、サクラエビ漁業の復活はきわめて困難である。漁業資源管理と陸・川と海の問題を総合的・包括的に考え、解決策を探る時代が日本人にもやってきた。魚が獲れないから補助金に頼る時代は終わった。(了)


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