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日本人とは何か

連載第89回 放射能処理水の海洋投棄は正しいか?

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2021年4月19日

汚染処理水の海洋投棄を政府が決定

4月16日20時からBSフジプライムニュースに出演した。

政府の4月13日の決定は、東京電力福島第1原子力発電所の処理水(放射能汚染水)を海洋放出する方針を決めたことだ。汚染水の放出先送りは限界を迎え、約2年後には、海洋放出が開始される。現在東京電力の処理済み汚染水は約125万トンである。しかし現時点での基準値を超える汚染水が72%もあり、100倍以上の基準値超えも65000トンで6%もある。これを再びALPS(Advanced Liquidation Processing System)で処理する。その際ALPSで取り除けないトリチウムは海水で薄めて、法定濃度の40分の1以下にして放出する。トリチウムの放射線総量は事故前の上限の年間22兆ベクレルを下回る水準に定期的に見直す。



敷地境界線量(評価値)の推移(左)、処理水のタンクでの保管


海洋生態系への悪影響がこれでは30年間以上続く

本件はトリチウムだけの問題ではなく、原発の温排水での自然破壊が将来世代に禍根を残すことなることを危惧する。

これまでも原発の放射性物質を含む温排水そのものが、海洋と生態系に害を与え続けてきた。日本や韓国、英国とアイルランド沿岸など原発附近の海域の漁業生産量が急減し、その海域の水産物は食べられない等である。フランスのラ・アーグでは、白血病を発症した住民がおりその因果関係が危惧されている。

河川水と海水は180~230℃に達する原子炉を冷却する。原発を稼働中の世界中の国々が、放射性物質と過度のエネルギーと塩素などの化学物質を含み海洋より7~10度以上も高温の温排水を海洋へ放出している。この温排水により、地下水や河川水が持つ豊かなプランクトン、栄養分とバクテリアが死滅してしまう。この水が海洋に流されれば生物は寄り付かず、海洋の温暖化も酸素不足を誘発する。

福島県漁業は1980年代後半に58万トンが、1990年代に急速に低下し、現在(2020年)では約7000トンである。1966年(昭和41年)原発が完成し、その後急速に温排水放出量が増加し、1990年には毎秒750トンで1998年以降現在は約1000~1200トンである(溝口著)。


東北4県の漁獲量推移(1956-2019年度)


二酸化炭素の排出を規制 海洋も温暖化の源を規制へ

大気への二酸化炭素(CO2)排出規制に関しては、 2050年までに実質排出をゼロにするとの日米の共同声明が4月16日にバイデン大統領と菅総理大臣との間で漸く合意された。この合意には明確ではない原発の促進は排除されるべきである。海への温排水も空気中の二酸化炭素の放出以上に地球温暖化に貢献する。

原発は温排水の海洋排出という「経済外部性」;付け回しで成り立っている。海は国民共有の財産で、漁業者のものでもあり、国民全体のものだ。これからは「海を守る」時代である。

英国グラスゴー大学や英環境研究所によると、魚類と貝類(ムール貝)では数倍から7000倍に生体濃縮(CF;Concentration Factor)されるという。高位のマグロ、イルカやクジラはさらにこれを10倍以上に濃縮する。人間がこれを食べる。仏ラ・アーグでは人間が被ばくした例も報告される。食物連鎖とCF値の算定などを含めて総合的調査とモニターを福島・三陸沖の海洋・生態系内で行うことが必要である。


国連海洋法と韓国の国連海洋法裁判所への提訴

国連海洋法は海洋の平和利用、海洋水産資源の持続的利用と海洋汚染の防止が目的である。その国連海洋法第207条では陸にある発生源からの汚染に関してその第4項では地域のルールの確立(適切な協議)を要求される。中韓とロシアとの協議に応じなければ日本はそのルールに必ずしも合致していない。

日本政府が頼るIAEA(国際原子力機関)は原子力の利用推進の国際機関であり、海洋環境や生物多様性に関してはむしろ国連環境計画(UNEP)、ユネスコ(UNESCO)や国連食糧農業機関(FAO)に問うことが妥当だ。

韓国の国際海洋裁判所(ITLOS)への提訴は、海洋法の第15部「紛争解決」に照らし、第290条により暫定措置(仮処分的差し止め)を要求できITLOSが韓国の暫定措置を認めた場合、日本は原発処理水の海洋への放出が差し止められる。私が日本政府在籍中にミナミマグロ紛争で豪NZと係争した折に暫定措置で敗訴し、日本漁船のマグロ漁業操業停止を余儀なくされた。最終的には勝訴。(小松・遠藤著「国際マグロ裁判」(岩波新書))

国際海洋法裁判所への韓国の提訴は日本にとっては難題となりかねない。最近はWTOと捕鯨でも日本は敗訴した。(了)


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