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日本人とは何か

第102回 自然工法に基づく水辺の復興

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2022年6月26日

スミソニアン環境研究所が東日本大震災被災地を訪問

5月31日から6月9日まで米国スミソニアン環境研究所のデニス・ウィグハム博士ら一行5名が訪日し、我が故郷の陸前高田市を訪ねた。これが3度目であった。訪問の目的は東日本大震災;平成大津波の被災地の復興支援と貢献である。三陸海岸は12.5メートルの防潮堤で囲まれ、陸からは海が見えない。三陸海岸は陸中海岸国立公園に指定され風光明媚であった。


津波で壊れたコンクリート防潮堤

岩手県は明治29年と昭和8年の大津波でも大災害を経験した。昭和35年のチリ地震津波の後には大船渡湾と釜石湾の湾口防波堤が出来上がったが、2011年の平成大津波第2波で崩壊した。千曲川の河川堤防や武蔵小杉の堤防も役に立たなかった。



平成23年3月大津波で破壊されたのち平成27年3月再建された大船渡湾の湾口防波堤
既にひび割れが目立つ 2021年9月著者撮影


陸前高田市高田松原の防潮堤は総延長が2キロメートルで高さが12.5メートルである。実際の津波の波高は15.5メートルだったので、平成23年津波と明治29年ならびに昭和8年の津波が襲来したら、現在の防潮堤では防げない。なんで防潮堤を造ったのか。


生態系を分断、社会と景観を破壊

防潮堤は、豊かな生態系に恵まれた沿岸の湿地帯、河口域、砂浜、岩礁地帯に建設され、連続した生態系が破壊された。栄養塩、水流、土砂や生命;動植物とプランクトンの流れが遮断されると海の生態系力も失われる。豊かな三陸の海の生産力が失われた。豊かな漁業生産を失った瀬戸内海もコンクリート構造物の建設で干潟、湿地帯それに藻場を失ってしまった。

ところで、欧米においては、従前工法では、防災と地球温暖化にも対応できないとされている。また、都市住民からは、自然が破壊されることへの反対や景観の悪化も問題視された。


自然工法は欧米;EC(欧州委員会)と米政府の政策

従来工法に対し欧米では、自然の力の封じ込めではなくて、自然との調和と自然の力を逃がし、活用して防災を図る考えが2000年代に持ち上がった。これらの自然工法の活用はNature Based Solution;NBSと言われる。米ではNBSに代えてEngineering with Nature; EWNという。

EC;欧州委員会ではNBSを2013年から「調査とイノベーション政策」に積極的に取り入れている。また、国連は2018年の「世界水の日」を「水のための自然」と名付け、NBSを公式に導入した。日本ではNBSの浸透が極端に遅れており、一部の都市部を除き前例がないNBS後進国である。


スミソニアン環境研究所の自然工法による水辺再生

デニス・ウィグハム博士に同行したアンダーウッド社は、自然工法を活用した水辺再生に数々の具体的な経験と実績を有する。ダムを撤去して、地元の倒木、小石、残土と樹木を活用した段差のある水路の造成、排水処理場からの処理水や農地の排水を湿地帯を通過させ浄化したのち河川へ放出、垂直のコンクリート護岸を撤去し傾斜をつけた砂浜を造成した親水性の海岸造成などである。また、人工堤防に代えた、波による自然の年数経過でできる海岸造成である。

防災上NBSは脆弱ではないかとの懸念への答えは明確である。津波で壊れた堤防と湾口防波堤のごとく自然に対抗し、自然の力を封じ込めるのではなく、これと調和し、また逃がすことで、活用する。そして人命をしっかり守る。津波のケースでは、高台移転と避難道を造る。河川では氾濫原を設け、湿地帯・緩衝帯を造る。


国会議員と決議を採択

スミソニアン環境研究所の一行は、井上智夫国土交通省水管理・国土保全局長、武部新農林水産副大臣と枝元真徹農林水産事務次官、奥田直久環境省自然環境局長、達増拓也岩手県知事、戸田公明大船渡市長と意見交換した。大船渡市ではNBSの国際シンポジウムを開催し約150名が聴講した。中谷元、鶴保庸介、三木亨議員と会談し、石破茂、武部新、小林史明議員を含む6名の国会議員とデニス・ウィグハム博士ら5名の専門家との間でNBSの日本での推進に関する決議を採択した。また、農林水産省と大船渡市において一般紙、地方紙と水産業界紙との記者会見を行い数多くの記事となった。



6月7日中谷元衆議院議員、鶴保庸介参議院議員と三木亨参議院議員とデニス・ウィグハム博士ら
スミソニアン環境研究所の一行。筆者は右後列;写真一般社団法人生態系総合研究所


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