前回、料率の自由化はリスク区分の自由化とともに行われ、今や自賠責保険や地震保険のような厳格に規制された保険以外ではユニバーサルサービス的な考え方は成り立たないと述べた。
では、自由化が実現した現在、リスク区分は個々の保険会社の考えによって勝手気ままに細分化されて、何も弊害は生じないのであろうか。今回は、「リスク区分の細分化」について、もう少し掘り下げて考えてみよう。
アメリカの著名な消費者運動家であるラルフ・ネーダー氏が1988年に「有権者の反乱(Voters Revolt)」という組織を作り、カリフォルニア州で保険業界を相手取って起こした消費者運動があった。これは結果として「提案103号(Proposition 103)」という住民立法を成立させ、民間保険会社が引き受ける自動車保険の保険料を強制的に20%引き下げ、保険契約者への保険料の返還を実現することとなった。
当時、保険料の返還という点がセンセーショナルに取り上げられたが、この時の消費者側の主張には、自動車保険において保険会社が設定したリスク区分への異議申し立てという、保険において本質的な問題が含まれていた。それは、地域別料率という「リスク区分の細分化」がもたらす弊害に関する問題提起である。
背景にあった事実はこうである。地域別料率が設けられるまではリスクの低い郊外とリスクの高い都市部の保険料は平均化されていた。これが、郊外と都市部という地域による「リスク区分の細分化」によって異なる料率が適用されることとなった。その結果、郊外に住む人の保険料は安くなる一方、当然のこととして都市部に住む人の保険料は高くなった。
問題は、郊外には多く白人が居住しており彼らは総じて裕福であったのに対して、都市部には多く黒人が居住しており彼らは総じて貧困であったことによって生じることになった。「リスク区分の細分化」の結果、都市部の黒人は、保険料の高騰によって保険の入手が困難になり(アフォーダビリティ問題)、法律上、自動車保険が強制付保されているため保険なしでは自動車を保有できず、クルマ社会であるアメリカにおいては仕事場に行くための交通手段を失い、失業するという事態まで生じたのである。
現在、わが国の自動車保険において、例えば年齢区分については一歳ごとの細分化が可能である一方で(ただし、料率格差は3倍以下という制限あり)、地域区分については都道府県別の細分化を行ってはならず、7つの大括りした地域別であれば細分化が可能となっている(こちらも料率格差は1.5倍以下という制限あり)。これは1997年6月に当時の大蔵省が、リスク細分型自動車保険の取り扱いに関して公表した「事務連絡(ガイドライン)」が、平成17年、保険業法施行規則第12条第3号ハに継承されて設けられている措置である。当時の大蔵省がこうした措置を設け、金融庁がこれを継承しているのは、自動車保険が国民にとって必要不可欠な保険である中、保険料が高くなりすぎて保険に入れないものが出てくるという事態を避けるためである。まさに、「公共財」としての自動車保険の性格に着目して公的規制が導入されているのである。
では、金融庁による公的規制が保険会社に適用されるのは当然であるとして、公的規制が存在しないところでは、個々の保険会社は「リスク区分の細分化」をどのように行っても問題はないのであろうか?
(文責個人)
日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史
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