地震保険を語る

(第八回)長い長い「ゾウの時間」

 生物学者の本川達雄氏が書いた「ゾウの時間ネズミの時間」という本がある。とても感覚的なのだが、保険にも生物と同じように時間があるなら、地震保険の時間は、間違いなく長い長い「ゾウの時間」だ。
 前回書いた地震保険の仕組み(二つの貯金箱)について、具体的にイメージを見てみよう。出所は2011年9月8日、政府の地震保険特別会計に関するワーキンググループでの検討の際に使われた資料である。
 貯金箱のお金(以下では「お金」という)は、毎年地震保険料が新規契約や契約の更新によって1000億円ずつ追加で入ってくるとして、次のように変化する。
 1966年の地震保険誕生以来貯まった「お金」は2.4兆円あったが、2011年の東日本大震災により、1.2兆円に減少した。この「お金」は、その後の毎年の地震保険料によって回復し、2041年には3.9兆円となる。しかし、ここで発生する東海3連動地震によって▲0.3兆円にまで落ち込み、政府から赤字分の0.3兆円を借り入れる。その後、借入れを返して、2061年に1.5兆円まで回復した後、首都直下型地震によって▲1.5兆円となり、これも政府から借り入れる。さらに、2143年に5.9兆円まで回復した後、関東大震災の再来によって0.4兆円となる。以下、この資料では、2491年までの期間、大きな地震の度に大幅に減少し、そしてその後に回復していく「お金」の動きが折れ線グラフで掲載されている。
 もちろんこれは単なるイメージで、実際にこのとおりになることはない。言いたいことは、地震保険は、他の保険のように単年度の保険会社の決算に決して馴染むことのない、長い長い「ゾウの時間」の中で運営されているということだ。そして、実のところここには一円も税金が投入されていない。借入れ部分も地震保険料から返済する。つまり、地震保険制度は、地震保険の加入者が負担する保険料のみによって運営される、完全に「自助」の制度なのである。 (文責個人)

日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史