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日本人とは何か

第12回 中国の地方都市で考えた日本

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2016年7月28日

中国の水郷と大穀倉地帯

嘉興市は上海から西に約90キロ杭州へは更に西に90キロの地点で、蘇州からは南に60キロの地点にある中国の明時代の大穀倉地帯に位置する。文化人や思想家も多くを輩出している。上海国際空港では嘉興市の文化部の担当官と嘉興学院で日本語を学ぶ女学生の範詩佳さんが待ち受けていた。空港から、自家用車で嘉興市の梅州酒店(国際会議が開催されるホテル)に向かった。嘉興市は人口400万人で中国の都市としては中規模だがとても行政区域が広い。


日本を学ぶ女学生

範詩佳さんらは日本語を沖縄出身の女性教師(68歳)から習っている。文法や読本が中心で、彼女らは、日本の小説の「こころ」などを読んでいるという。現代とは関係ない小説を読んでいるがテレビやネットでの日本の情報には甚しく詳しい。日本のお菓子で最近何がおいしいとか、小栗旬主演の中国の時代劇や山下智久主演のテレビドラマや「9時から5時まで」とか「結婚できないのではない、しないのだ。」などとのこと。

陳志勤 上海大学社会学・副教授が、6月10日の「民俗文化中国美麗郷村嘉興端午国際学術検討会」なる国際会議での発表は、日本語で発表して欲しいと。私は主催者である清華大学の劉暁峰教授から、英語で私のプレゼンテーションをと言われていた。急遽日本語のパワーポイントに書き換えた。


衰退する中国農村

6月9日9時から嘉興市の中にある海寧市と海塩県に視察に行った。海寧市の丁橋鎮新倉村の再現した農村の住宅街と古農家を見に行った。コメの藁をそろえる老婆が居たので、何のためにしているのかを聞くと焼香のためという。日本の護摩の木と同じだ。藁に代えて護摩を燃やすこともあるそうだ。

農作業から帰るご婦人に質問した。トウモロコシやイモやナスなどの葉っぱの雑草取りをしていたので、野菜は自家用かと聞くと、売りにも出すと。猫の額ほどの土地の農作物を販売するとは。年齢を75歳ぐらいかと聞くと68歳と答える。女性の年は当てるのが困難だ。農村部は高齢化が進んでいる。このご婦人は子供も孫もいるそうで一緒に住んでいるとのこと。

その後、銭塘江の堤防を見る。銭塘江の上流からの流水の影響と下流の杭州湾の大潮が重なり月に何度か湧波(高波)が起こり、生命の危険が迫ることもあるそうだ。これが観光の資源ともなり多くの人が見学に来る。堤防の下は、畑で、この付近は塩害が強く、米作には適さない。年配の男性はこの辺は観光で生活している。観光客が多いと言う。息子と娘は都会に出て行って帰らないとのことである。


中国文化と日本人の心

海塩県に行き、古い農家の工具や家庭の食器などの展示家屋(写真)に行く。受付の男性から書道をしてみないかと言われて「国破れて山河あり、城春にして草木深し」と杜甫の漢詩を書く。その後日中関係を大切にせよとの長文をと「美麗文渓潟」と書く。農学博士小松正之 2016年6月9日と記す。広報の担当者がしきりに写真を撮る。これを室内の壁に飾る・展示するとのことだ。その後、古い台所用品の説明を受ける。その様子も逐一写真に撮られる。窯は汁用と米炊き用とがあり、竃がある。火の安全や幸福を願う文字や張り紙や竜の絵がある。日本の50年前と本当に変わりない。中国と日本は本当に近い。習字が上手な男性が描いた24節を書いた円盤には、「立秋、白露、小満、処暑、秋分、・・・・夏至、大暑、小暑」とある。私は教養のなさをしみじみ感じる。四天王も言えない。染料工場で見た植物と自然の染料の名前も言えない。現代人にとって必要のない知識と言ってしまえばそれまでであるが、しかし日本人である自分の奥底に潜む、生活と体内を構成する自然を表現した日本語を思い出した。

これらの言葉を大切にすることは、自分の肉体と精神を自然との一体に作り上げるような気がする。教養も自分の体と心の一部となるというものがあるのではないかとの発見があった中国への訪問である。



嘉興市海塩県の農家・民具展示館前で事務局の人と 2016年6月11日


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