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日本人とは何か

第43回 歴史観と哲学

東京財団政策研究所
上席研究員
小松正之
2018年4月20日

「科学的改革の構造」の生い立ち

2017年3月6日、ジェファーソン大統領、モンロー大統領やタイラー大統領を輩出した名門校で、ハーバード大学に次ぐ米国で2番目にその歴史の古い大学であるセントウイリアムスとマリ大学の海洋研究大学院VIMS(Virginia Institute of Marine Science)のリプチウス教授からトマス・クーン博士の「科学的改革の構造」(The Structure of Scientific Revolution)なる書物を2017年3月に勧められた。彼は、米国東海岸のチェサピーク湾の重要種ワタリガニの資源を悪化させる漁法として、放置されてきた「そこ桁網(Dredging)」の漁法の禁止をバージニア州政府に提案し、州政府の制度とし、大切な産卵前のメス蟹の保護カニ資源の保護につなげた立役者である。

クーン博士は物理学が専攻で、1962年の本書が書かれた当時は、旧ソ連と米国は冷戦の真っただ中にあり、キューバのミサイル危機やベルリンの壁がつくられたこと時代であった。しかしその後科学の関心は、クリックとワトソン博士によるDNAの構造の発見により分子生物学に移行した。


科学の歴史観と哲学

クーン博士にとって幸運だったことは若き日のハーバード大学の大学院の学生時代に、科学の専攻ではない人々に対して、物理学を教える実験的なコースを取ることができたことであった。

彼は、科学者としての訓練と自分の知的な関心が、科学の歴史に接することによって、根底から覆されることに驚かされたと述べている。それから科学の歴史と科学的な哲学に関心を抱くようになり、科学の発展がどのようにして展開されてきたかに興味を強く抱いたのである。

考えてみれば長い歴史観と物事を狭い範囲からとらえる見方ではなく、大きな歴史的な流れと哲学の見方から、科学を見るようになり、そして、科学の成り立ち、その後の科学の問題の派生とその解決、パラダイム(新しい考え方や理論の基礎となるものの提示)、科学的な発見、科学の危機、新理論が出て、次第に受け入れられて、科学の見解とし受け入れられて、社会にも受け入れられるとの一連の流れである。


パラダイムシフト

この書の中でクーン博士はパラダイムは科学の進展や新しい事実の発見によって、それらの減少や証拠と説明するのにふさわしくなくなり、最新の事情と証拠にふさわしい新しい考えに移行する必要が出てきて、そのようなパラダイムの変更と新しいその結果としての新理論が形成されると述べている。それは断続的にある時代に起きうるという考えである。

プトレマイオスが紀元後2世紀に出した天動説が、コペルニクスやガリレオの地動説にとって代わられるまでには1400年の時間を要する。そしてまたその後、ニュートンの万有引力の法則が提示され、地球と天体の行動が正確に人類に早く示されるようになった。

ダーウィンの種の起源もまた同様である。日本という国は神様がつくられたとされているが、キリスト教も同じである。万物は神が創造した。すなわち「天地創造」である。これを人間も含めて万物は環境の変化に対応する進化によって生ずるとの説を唱えるとキリスト教会とそれに加担する科学者からは、非難を浴びる。それで、種の起源もそれが執筆されてから数十年後にダーウィンの弟子たちにより発表された。


日本と歴史観と哲学

日本には科学を大局的に歴史観と哲学を持って、俯瞰し科学全体の方向を提示する科学者が見当たらない。これは何も科学の世界にとどまらない。明治や戦後直後からに日本も世界も大きく変化しているが、相変わらず、古い体質を引きずった世界とグループが日本にはまだまだたくさんいる。

また、大局観と哲学感がないと、人間も自己本位で保身と身を持ち崩し、重大な検討の場も単なるあら捜しやその場しのぎとなり、時と資金と重要な人的資源の活用の機会も失う。これが今の日本の現状に見える。このことをクーン博士の偉大な書物を読む機会を与えられて考えることとなった。社会、組織や制度の在り方に関するパラダイムのシフトが今、最も必要であると思う。



トマス・クーン著「The Structure of Scientific Revolution」


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