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日本人とは何か

第61回 ニューヨークの新フルトン・マーケット

東京財団政策研究所
上席研究員
小松正之
2019年5月30日

9年ぶりの新フルトン・マーケット訪問

5月10日の真夜中にニューヨーク市ブロンクス地区に移転した新フルトン・フィッシュマーケットを9年間ぶりに訪問した。以前に比べ施設破損と臭いのしみ込みが気になった。

ところでマンハッタンにあった旧フルトン・マーケットの起源は1822年に遡り、米国では最も古い水産物市場である。

旧フルトン・マーケットはその地域が ①混雑したこと ②施設が老朽化したこと ③付近がウォール街などの金融街になり土地価格が値上がりしたこと ④当地区の再開発のニーズが高まったことが移転理由として挙げられる。


旧フルトン・マーケットの移転

マンハッタン中心部から約25キロ北に位置するブロンクス地区ハンス・ポイントへの移転計画が2001年から開始され2005年に完成し11月4日に移転した。

新フルトン・マーケットへの移転直後には29社の卸売会社・トレーダーが営業していたが、現在では25社に減少した。取扱量は年間約9万1000トンで金額では約1100億円(10億ドル)である。

日本は集荷の機能を持つ卸売会社が豊洲では7社、仲卸人が約500社で売買参加人が270人に達する。金額は約4000億円で取り扱い数量は39.1万トン(2018年)である。

広さは約40万平方フィート(3万7500平方メートル:3.75ヘクタール)で44ヘクタールの豊洲市場と比較すると約10分の1の広さである。平屋建てで、長さが200メートルで幅が約20メート弱である。



新フルトン・マーケットの午前0時頃 2019年5月10日


新しい卸売会社の登場と流通改革

フルトン・フィッシュマーケット社は同市場に進出後まだ3〜4年程度である。この会社は基本的に産地から水産物を調達せず、市場内の卸売会社(トレーダー)の鮮度や品質の判断基準からみて、適当と判断した卸売会社から水産物を購入する。それを、全米に広がる顧客リスト;レストラン、小売店舗と個人や病院などに直接空輸し、近くはトラック・自動車で輸送して販売している。同社は市当局からその進出を要請され、現在の名称を使うことも許された。

現在、米国水産物の消費と流通は流通システムが悪すぎて、臭いがし食べる気がしない。買って食べるとやはり裏切られると思う人が多い。だから魚を食べない。また、本当に良いものは法外に高すぎる。結局肉に走る。鮮度保持をしっかりすることが重要である。

同社は流通改革を考えた。出荷の形態と方法を全く変えた。それは、おいしい魚を末端まで届けられるかである。鮮度低下の原因は、湿気、水分と臭いであり、これらを吸収する素材を開発、活用して輸送をしている。この素材;粒子をボックスの底に敷くだけで、魚が高鮮度のままで、長期間維持できるので全米各地に輸送が可能となった。その結果、急いで出荷することもなく、また、顧客と出荷の地方に応じて、時間差で出荷すればよいので、市場内のスペースを有効活用できる。

同社は水産物を扱ったことがなかった。もともとは科学素材を扱って食品関係の仕事をしていたエンジニアである。その経験を生かして、鮮度保持を良好に保つ科学素材入りのボックスを開発した。このためにビジネスは、年率数十パーセントで拡大している。



フルトン・フィッシュマーケット社の新素材 2019年5月10日


米国産の水産物の国内消費の向上を目指す

米国の水産物自給率は9%である。アラスカ州を抱えているのに、多くを輸入に頼っている。米国民の食べている水産物は5000マイルを旅してきている。同社のものは500マイルしか旅せず10分の1である。輸入が多すぎる。米国は世界有数の資源管理が厳格な国家である。自国の水産物消費が重要である。又、市場内を見ても市場で不正取引や資源管理を守っていないものが入荷していないかをチェックする役人が常に毎日見回りをしている。こんな国はほかにない。日本の豊洲では全く見られない光景である。



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