日本人とは何か
第64回 目まぐるしい変化の中の卸売市場 日本人と魚食とは何か
上席研究員
小松正之
2019年8月1日
日本の海から魚が消える?
世界で水産物の生産量や需要が伸びる中、日本の漁獲量は平成の時代に減少の一途をたどった。2018年の漁獲量は439万トンで、ピーク時の35年前の1284万トンに比べて3分の1近くに落ち込んだ。それも遠洋漁業の落ち込みよりも日本の200カイリ内水域の日本の漁業の凋落が著しい。7月に入って一段と悪化している。
日本の海にはカツオ、ビンナガマグロ、マサバもスルメイカもいなくなったようだ。大型の巻き網漁船は唯一の魚種であるマイワシを狙い、現在は釧路沖にその操業を集結しているが、やせたマイワシは脂の乗りも悪く魚価もキロ26円程度である。サンマの国際合意が達成されたが、昨年の実績を10万トンも上回る55万トンに設定され、資源管理の実効性が期待できない。
補助金漬け捕鯨を「商業捕鯨」と呼ばせる
極めつけは「商業捕鯨の再開」である。私が1991年から2004年頃に担当していたピークには1400頭の捕獲枠まで増大し設定した。鯨肉量換算では6000トンである。現在は227頭と16%に減少した。実に84%を失った。鯨肉の供給量が1000トンにも満たない。供給不足だから産地でも消費地でもキロ14000円の値をつける。これでは国民はクジラを買えない。第1次産業ではない。
そして売り上げ10億円未満に対して50億円の補助金が捕鯨に投入される。80%が補助金でアイスランドの捕鯨関係者は日本の捕鯨を「補助金捕鯨」と呼び、補助金行政を批判する。このように、東京の豊洲市場の入荷量もピークの90万トンから、昨年(2018年)は約3分の1強の34万トンまで激減した。
対策を打たない親方日の丸豊洲市場
日本の漁業の衰退と市場への流通量の激減に対し卸売市場から声を上げなければならない。漁業者が適切な資源管理を行うように、強く国民を代弁して卸売市場の関係者が主張することである。水産物を産地から調達できない卸売市場の存在意義はないと思われる。消費者も高い魚を買わされる。
世界と日本の卸売市場を取り巻く変化を見ると、①ネットの発達と直接販売の増加並びに市場外流通の増加、②市場内サービスの多様化、③年齢・家族構成と働く女性の増加、調理の簡便性と時間短縮、ごみの分別、④密封式の集合住宅へ環境の変化、⑤国民が自然から遠ざかる、➅食の安全と安心、供給される水産物が環境にやさしいか、持続的に漁獲されたものかが問われる時代になった。
6800億円の巨額税金をかけた豊洲市場は適切に使われているのか
私は、日本国内の水産物卸売市場に関しては、消費地中央市場と産地地方市場を毎年回り、その変化を観察してきた。本年に入ってからも豊洲市場を最近頻繁に訪れ、広島市場、札幌市場と大阪市場を回った。また、最近10年余り、世界の卸売市場は水産物市場、花卉、食肉、チーズと青果市場を視察し関係者との協議を重ねた。フランス・パリの巨大な総合拠点市場であるランジス市場、米国ニューヨークの新フルトン・フィシュ市場、豪シドニー・フィシュ・マーケット、ニュージーランドのオークランド市場、ロンドンのビリングスゲート市場、ボロー・マーケット、新ローマ市場、オランダのイムイジン市場と中国の上海浦東市場、韓国のソウル市内の可楽洞(ガラクトン)市場、鷺梁津(ノーリャンジン)市場と釜山ジャガルチ市場である。オランダのアルスミア花卉市場も回った。
2018年に卸売市場法、食品流通構造改善法と漁業法が改正されたが、根本的な解決策を期待される現状の要請には応えていない。また、新たな豊洲市場も安全と品質管理は向上を目指したが、卸売市場を取り巻く環境の変化に対応していない。巨額の税金をかけてその収支すら明らかになっていない。毎年の収支のほかに総投資額を各年の経費に計上する企業会計のバランスシートも明らかにすべきである。豊洲市場を見ると問題点は多い。都民と日本人の食を守る取り組みは黄信号から赤信号の間ではないか。将来が心配である。
豊洲市場の全景;東京都提供