日本人とは何か
第77回 コロナウイルスと日本の対応(その2)
代表理事 小松正之
2020年5月18日
少ない日本の感染者数は本当か
世界のコロナウイルスの感染者数は463.6万人で死者は31.2万人(2020年5月17日現在)に達した。現在も感染している252万人のうち247万人は中軽症の者である。このうち米国は感染者数149.7万人で死者数8.9万人、世界の3分の1弱である。また、次いで多いのが欧州のスペイン、ロシア、英国、イタリア、フランスとドイツの順である。かくも欧米に多いのは何たる皮肉であろうか。米のトランプ大統領は初期の中国の情報の隠蔽とWHOの初動の遅れのせいにしている。豪などが訴訟まで起こそうとしている。しかし、一方でトランプ大統領の対応が遅れたことが米の感染の拡大につながったことも事実である。
日本は感染者数も死者の数も格段に少ない。現在の累計感染者数は16,253人で0.35%、死者は729人で0.23%である(5月17日)。なぜこんなに異様に少ないのであろうか。原因は2つと推定される ①日本国民が自粛要請に対応していて感染阻止に成果を上げた。日頃の衛生・清潔の徹底が功を奏した。 ②この数字が虚偽または実態を全く反映していないかである。後者はある程度事実であろう。
改善余地があるクラスター対応
WHO(世界保健機関)マイク・ライアン部長は「日本はクラスター(集団)感染の追跡には取り組んでいるが、感染経路不明が多くみられる」と表明した。その通りで、PCR(Polymerase Chain Reaction検査方法)の検査数が少なすぎる。
安倍晋三総理が一日2万件をと言っても6〜7000件にとどまっている。これまで、日本は23.3万人(5月14日現在)で、人口100万人当たり1,843人しかPCR調査していない。米国は1,064万人をすでに調査済で人口100万人当たりでは32,166人で実に日本の20倍である。ましてや抗体検査も日本ではほとんど実施していない。
西浦博博士の80%削減の科学的根拠の薄弱さは否めない。人が密集・接触の仮定は、PCRや抗体調査でデータが得られれば、年齢別にウイルスの保有者・感染者か、抗体・免疫を持っているかの基本データの精度が良くなる。80%が妥当かの根拠は提供されよう。
5月15日銀座も地下鉄も人がまばらである。(写真)
コロナウイルスで乗客も少ない地下鉄丸ノ内線午後13時 著者撮影
コロナウィルスで人出がない銀座四丁目交差点 5月15日13時頃 著者撮影
疫学的終焉と経済的終焉
WHOと厚生労働省はコロナウイルスの完璧に近い撲滅を望んでいるが、緊急事態宣言から2か月目に入り、欧米でもロックアウトが長期化すると、経済的に困窮し、生活が困難になる。他にも医学・公衆衛生上も他の病人が診察を受けられないケースが発生する。また、経済活動が停止・削減され、行動の自由を制約され心理的、健康・衛生的な減耗・問題も生じる。人々は感染症による困難・死か経済的損失・社会的困窮かの選択を迫られる。5月4日の緊急事態宣言延期でこの選択が俎上に上がった。
過去の感染病の歴史を見ると、14世紀のペストでも、1918年インフルエンザでもエボラ出血熱もHIVウイルスも、また、SARSコロナウイルスもMERSコロナウイルスも撲滅されていない。宿主が人間以外の動物のケースは、その宿主を100%除去することは不可能である。したがって、ワクチンは開発されても蝙蝠と動物に宿主を持つ新コロナウイルスと人類は永久に付きあわざるを得ない。
長期的視点。将来の財政も考えよ
ところで、特別定額給付金10万円、事業者向け持続化給付金100〜200万円と政治家はこれらを配り、国民はそれをあてにしている。また、日銀の黒田総裁は、日銀券の発行を無制限にして、国債を引き受けるとの方針を表明したが、政府の財源も、日銀の経済的裏付けも、日本国民の経済活動が生み出す経済価値と税金である。しかし、現在は政府も日銀もそのことに言及はないが、予算と金融は私たちと子孫に重くのしかかる。経済的困窮に目が行きすぎて、私たちの将来の負の遺産であることを忘れてはならない。ところで10万円の特別給付金だが、国会議員、地方議会議員、国家公務員と地方公務員は正常に給与をもらっている。財政規律の面からも彼らは強い意志をもって返上すべきである。公僕の矜持に強く期待する。