日本人とは何か
第78回 コロナウィルス後の世界と日本
代表理事 小松正之
2020年6月4日
コロナウィルス感染症後の世界
コロナ後の世界は、西洋と日本の社会の歴史を見ていると良い方に進んでいるとは到底思えない。悪い方に向かっていると思える兆しが多い。
米国の暴動と略奪
5月25日ミネアポリス市で起こった黒人男性George Floyd氏に対する白人警察官による第3級殺人事件は直ちに、全米に暴動と略奪の嵐をもたらした。白人集団の黒人差別グループやそれに反対するグループ(ANTIFA)が教唆し先導していると伝えられている。
コロナウィルスの感染者数は世界で約629万人に達し、米国は世界第1位の189万人で死者は10万人を突破した。コロナウィルス感染症で失業した黒人は白人の2倍以上で、コロナウィルスによる死者も黒人は白人の2倍以上である。黒人の平均所得も白人の60%程度である。
コロナウイルス感染症騒動前の賑うNYマンハッタン ブロードウェイ2019年6月3日著者撮影
米社会貧富の差の拡大
米社会は、近年貧富の格差が拡大してきている。上位10%が米国の総所得の90%を稼ぐと言われている。WHO(世界保健機関)にも寄付をしたビル・ゲイツも、巨万の富を集積した。それは従業員の汗の結晶である。インテルなどのIT企業も利益を大幅に拡大した。宅配が増えて、非難を従業員から浴びているアマゾンのジェフリー・ベゾス社長もその一人である。
根差す差別
米国の独立宣言は、黒人奴隷とネイティブ・アメリカンを除いた自由と平等を謳っている。黒人労働力を利用していた第3代大統領のトマス・ジェファーソンらが起草した。彼は黒人奴隷女性を生涯囲い、自由にすることはなかった。米国の独立戦争も英国と戦って戦死したのは低所得階層の白人と黒人であり、支配層と富裕層は独立の利益にあずかった。自由と独立はお金持ちのためであるとされる。
南北戦争と黒人分離政策
南北戦争も、工業と資本主義の発達した北軍の勝利で、南軍は奴隷解放を強いられたが、教育、技能と収入獲得の手段がない黒人は引き続き白人に隷属した。そして、白人と黒人を「分離はするが平等」であるとの「ジム・クロウ法」が成立し100年近くも続いた。
マルチン・ルーサーキングJrなどが立ち上がり1964年に成立した公民権法によってはじめて、白人と黒人は平等とされ分離政策も米国憲法上違憲とされた。しかし、実態は簡単には変わらない。
差別と格差は表裏一体である。所得が低い者は、貧困から抜け出るための教育手段も得られない。豊かな者をさらに豊かにし、貧しい者はさらに貧しくなった。コロナウィルス感染症で米連邦の建国の思想と目的が、富める者の自由と平等であり、貧しいもののためではないことが、強く認識されたのではないだろうか。
中国と米国とWHO(世界保健機関)
中国からWHOに対して、人間に移る可能性がある新型ウイルス感染症の発祥であるとの通報が遅れた。漸く3月12日にパンデミック宣言がなされた。12月31日に通報された台湾情報をWHOがもっと真剣に調査していればと思う。
米国のトランプ大統領はWHOから脱退すると表明した。分担金の支払いが滞る。WHOの分担金は総収入の20%程度なので、大きな痛手ではない。残り80%は民間や政府からのひも付きの任意拠出金である。WHOは分担金を自分の裁量で使用できる。
習近平と李克強の微妙な関係
世界に国内産業を重視する動きがあり、また、中国国内の生産体制も回復に時間を要する。また、中国に代わり水産加工業を引き受けるとポーランドが言い出した。中国の政治と軍事力の強さは経済力があってこそである。豪州から食肉製品を米国からも穀類を買わなければ、中国国内の食料の安全と安定供給ができるとも思えない。
党総書記の習近平と首相である李克強の関係は、ナンバーワンの地位をめぐっては中国のかじ取りが困難になった現在、この関係が微妙になったと伝えられる。
歴史の片隅の日本
ドイツ、ロシアと中国はトランプ大統領への非協力を声明にした。トランプ大統領追随でなにもしないのは日本だけか、韓国と台湾とニュージーランドにも後塵を拝する。もうすでに歴史の片隅の「置き去りにされた国」である。