日本人とは何か
第87回 「人類の世紀」とは
代表理事 小松正之
2021年2月18日
コロナウイルス感染症で進む環境の悪化
最近のコロナ禍で、環境破壊や地球温暖化が一層進行している。アルコールの消費量、マスクの使い捨て、最終的なバッグ以外のコンビニとスーパーマーケットのプラスチックの大量の包装、在宅勤務でのパソコンでの電力消費増大と使い捨ての医療器具などである。手洗いの励行による水の使用量も増える。これも大気汚染につながり海に流れ込む。コロナウイルス感染症から、命を守るためにどれだけの環境汚染と破壊が起こっているのであろうか。
現在は自然破壊と米国民主主義の発展と限界
2019年に豪州のメルボルンで買った本で読みだしたのが「自然の後を」:原題は「AFTER NATURE」(Jedediah Purdy著)である。この本は「人類の世紀」(Anthropocene)について書いたものである。
「AFTER NATURE」 Jedediah Purdy著
著者の彼は高校まで、学校に通わず親が教育した。それでも難関のエール大法学部を卒業した。法学者の観点から、米国の自由主義、民主主義が土地所有の自由との関係で描かれる。白人は、土地は自分が開拓すると自由に所有できた。しかし、初期には、厳しい気候が立ちはだかり、大波や大水が開拓者を飲み込み、自然は恐るべき神であった。一方で開拓農地は豊かな恵みをもたらし、所有した。これが米国の自由主義と民主主義の原点と解説する。しかし、この自由の享受者と土地所有権者にアメリカ原住民と黒人は含まれない。
カリフォルニア州と太平洋に到達して、土地の際限が明らかになり、米国の自由と民主主義は曲がり角に達した。そこで、自然を守ろうと、人間と自然・生態系との関係が政治を通じて再考された。
1872年に世界初の国立公園としてイエローストーン国立公園が指定された。北米最大の火山地帯で熱水が吹き上げる。「黄色の石のある川」とアメリカ原住民に呼ばれた。1890年にはヨセミテ国立公園も指定され動植物が豊富で生物多様性が保持される国土を守る動きが始まった。
イエローストーン国立公園(写真:ウィキペディア)
「人類の世紀」は、自然破壊か共存か
地球は地質学的に、地質の堆積物を分析し決定している。「人類の世紀」はいつから始まったのか。地質学的には私たちはまだ「新しい世紀」(Holocene)の中にいる。
250万年前に人類はアフリカに誕生し、20万年前に私たちの祖先のホモサピエンスがアフリカで発生し、7万年前に人類は簡単な言語を操り、そして3万年前にネアンデルタール人を滅ぼした。
そして人類は1万2000年前に農業革命をおこし植物を栽培し、動物を家畜化した。ここから人類の急速な発展が始まる。これが「人類の世紀」の始まりといわれる。500年前に科学が急速に発展し、アメリカ大陸が発見されて、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に進出した時から、あるいは200年前の産業革命からという人もいる。
第2次世界大戦後の産業と経済の発展からという人もいる。この経済発展で大地を破壊し、空気を汚し、多くの動植物種を滅ぼし海洋も汚染した。経済の発展を支え地球環境を破壊したのが人間である。環境か経済発展か。それを推進するか、抑制かは政治が担う。その政治の選択は、政治家を選ぶ国民である。
生態学、経済と政治の三つ巴の関係
「自然の後を」は、生態学、経済と政治の三つ巴の関係を米国の自然、アメリカ民主主義、政治との関係から描いたもので、人類の方向とは結局は自分たちの一人・一人が決定することだと言う。当然のことである。地球と一体の世界と自然を造るのは私たち日本人も含めた人類である。
「人類の世紀」の定義はまだなされていない。人によって様々に理解される。技術が環境を救うとか、まだ地球は余裕があるとか、自分たちが生きている間は大丈夫との無責任論までいろいろだ。
現在は科学者が地質学から決定する時代とはわけが違う。また専門の科学者が地球の将来を見わたせるわけでもない。地質学では、地球上に過去5回の生命が絶滅した危機があった。「人類の世紀」には第6回目の滅亡がやってくるのではないかと警鐘が鳴らされる。
それを回避するか、それを招くのも私たち日本人を含めた人類である。