日本人とは何か
第94回 インド太平洋の構想と日本の行方
代表理事 小松正之
2021年9月30日
自由で開かれたアジア太平洋地域とは
最近、日本を取り巻く世界の動きが著しく変化しているが、自民党総裁選挙での演説を聞いても日本の存在感が感じられない。
クアッド(Quad)とは自由で開かれたアジア太平洋での協力であるといい2007年安倍晋三とチェイニー副大統領の間で始まったとされる。習近平(清華大学卒業生;下写真参照)主席から始まった中国の一帯一路がアジア、インド洋諸国とアフリカまで伸び、日、米、豪と印の太平洋を越えたインド洋まで含んだため、クアッドは中国を封じ込めることを意図している。
クアッドには4つの協力分野があろう。①政治②経済➂軍事と④環境の分野である。これら4つの分野は全てが関連している。経済発展と環境の改善は密接不可分である。また、中国は、環境は米国との2国間協議を進展させる「てこ」であると発言している。
中国の超名門校清華大学の劉暁峰教授(前列右)と日本学部の学生2016年3月
外交が基本
これらをつなぐ外交力が日本は心もとない。外交は国内の政治と国民の民度の反映で、政治家の力量と国民の民度(教養と理解力)から大きく影響を受ける。
3か国は軍事では日本のプレゼンスを期待するのか。日本国内が外国の要請に応えられないことは厳然たる事実である。北朝鮮が日本の排他的経済水域内にミサイルを落下し、台湾海峡の有事への対応も不明朗である。米国は台湾の独立は支持しないと言っている。
TPPと台湾、中国、米と韓
TPP (環太平洋パートナーシップ協定)に中国が加盟申請し、台湾も申請した。議長国日本は台湾の加盟は支持するが、国内規制が多い中国の早期の加盟は現実的でないとする。
中国が加盟した場合、中国の力がTPP内で優越しよう。米も未加盟であるが、米中間の選択の場合、日本はどちらを選ぶのか。台湾の加盟に関して、アセアン諸国で中国への配慮が必要な国は賛成しない。TPPは全会一致だ。韓国も未加盟である。TPPの将来は決して明るくない。
農林漁業と環境重視へのシフトを
ところで米の秘密外交主義に追随してTPPは日本国民に説明もしないで日本政府が勝手に結んだ協定である。日本でも加盟に反対が強かった。日本の第2次産業と情報・医薬産業の振興政策が強すぎる。振興しても最近は世界に負けて凋落する。第1次産業と自然を破壊するTPPは必要か。行きすぎた経済・産業優先から環境保護主義を強化したらどうか。
私は2012年から5か年間北京大学で農漁業と環境の重要性を授業してきた。
北京大学国際関係学大学院生に農漁業と環境を教える著者 2016年2月
問題を抱える4か国
モリソン豪首相は、中国との関係を悪化させた保守党系の首相である。先の労働党のラッド首相は中国との関係を、日本からシフトさせて関係の新たな構築を図った。モリソン首相になってから関係が悪化する一方の豪中関係である。
野党の労働党は、モリソン首相からの政権奪還を望んでいる。その場合、豪中関係は接近するのか。米国のバイデン大統領もアフガニスタンから8月31日をもって撤退したことによる同盟国を見捨てたとの批判にその失地の回復を図れるのか。日本と中国に尖閣列島の領有権をめぐる争いも米が施政権(行政行使権限)は日本にあるといい、領有権が日本にあるとは、歴代米政府は一度も言ったことがない。米は日米安保条約に基づいて日本を守るのか。アフガニスタンのように日本を放棄すると考えるのが当然である。自国の利益と領土は自国で守るべきである。
綻びが生じた西側連合
AUKUS(豪英米連合)が締結され豪仏の潜水艦の建造契約が破棄されフランスが怒った。EUヨーロッパ連合も大陸諸国を中心に英、豪と米に対する風当たりが強くなった。対中国の包囲網に対するほころびが生じた。仏の中国接近の可能性と、独の緑の党の中国との関係も見直される。
中国の不動産集団の経営破綻
不動産・建設業の恒大集団グループの経営が事実上破綻した。今後は債務不履行に陥るかどうか。不動産の販売が中国の地方自治体の収入の3分の1に達する。
写真 Japan Times 社から
同グループの原料の調達、電気自動車の製造への波及と同集団に投資した中国庶民の取り付け騒ぎの行方がどうなるか。著者も北京と上海など中国訪問中に何度も入居者のいないビルやマンションを見てきた。他の不動産集団や企業に波及しよう。中国経済全体や鉄鉱石と石炭などを中国に輸出してきた豪なども更なる打撃である。経済が悪影響を受ければ軍事や環境にも影響が波及する。(了)