日本人とは何か

第109回　2022年10月ローマ訪問記（その1）

3年振りのイタリア訪問

時の流れは速い。2020年1月にイタリアのシチリア島、3月にフェルメールの故郷オランダのデルフト市を訪問してから既に2年半が経過した。コロナ感染症が蔓延し、海外訪問はしばらく停止した。昨年9月から10月にかけてイタリアのローマを訪問した。ローマは1988年から1991年まで暮らしたため、とても懐かしい。

何度も訪問しているが、ローマを知っているかというとそうではない。カトリック教総本山のローマの教会をじっくり見たこともない。

聖ピエトロ寺院ローマ四大聖堂の探訪

この際、バチカン市国が所有する四大聖堂を見て歩こうと思った。この四大聖堂は、自分の権力を誇示しようとしたイタリア首相ムッソリーニとバチカンのカトリック中央協議会との間で1929年に締結された条約によって、これらの教会は独自の領地と税収への課税の免除、カトリック教育の権利などを与えられた。従って、現在でも四大聖堂はイタリア国とローマ市には属せず、バチカン市国は独立国家である。本ラテラノ条約は1984年2月にこの条約を修正署名された。

四大聖堂は、聖ピエトロ大聖堂（バチカン市国）、聖マリア・マジョーレ大聖堂、聖ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂そして城壁外聖パウロ大聖堂である。

これら教会は既に何度も訪問した。最も多く訪問したのが聖ピエトロ大聖堂である。私は農林水産省から外務省に出向して、国連食糧農業機関（FAO）本部があるローマに赴任した。その在イタリア日本大使館の勤務時代に農林水産省などからの訪問者があると、ご案内した定番は聖ピエトロ大聖堂とシスティーナ礼拝堂である。1988年頃は予約なしで、バチカン博物館とシスティーナ礼拝堂にも簡単に入ることができ、入場料もとても安かった。最近は、予約しなければ入れない。聖ピエトロ大聖堂は気軽には入れたが、今では荷物検査で日曜日に重なると長蛇の列だ。

聖ピエトロ殉教の地

聖ピエトロはネロ・ローマ皇帝に西暦64年のローマの大火災の責任を負わされ、処刑された。大聖堂は彼の殉教の場所で、324年にキリスト教に改宗したコンスタンチヌス帝がその殉教地の聖ピエトロの墓を聖域にして、その後に建設されたのかバチカンの聖ピエトロ大聖堂である。そして、1499年ブラマンテが現在の大聖堂を設計しミケランジェロがその施行の責任者となりブラマンテと対立した。のちにラファエロらが介入して現在の大聖堂に落ち着いた。

「鎖につながれた聖ピエトロ大聖堂」

ローマにはもう一つの聖ピエトロ大聖堂がコロッセオの北のパラチーノの丘にある。この丘の階段は急すぎて息切れがした。上り終えると角の生えたモーゼ像が中に荘厳に置かれている。「鎖につながれた聖Pietroの大聖堂」である。階下には聖ピエトロがつながれた鎖が展示してある。キリスト教徒巡礼者には鎖は苦難の象徴である。

今回のローマ訪問では良く歩いた。聖ピエトロ大聖堂から、ナボナ広場を通り、聖マリア・マジョーレ大聖堂まで歩いた。約1時間30分であった。

聖マリア・マジョーレ大聖堂

ここには聖母マリアが祭られており、この脇を何度も国連食糧農業機関（FAO）からの帰り道に車で通り過ぎた。この教会通りは、クリスマス近くになるとイルミネーションがきれいに輝いた。エンジェルの光の装飾が一段ときれいだった。この地はエスキリンの丘で、ネロ帝の頃はローマでも最も貧しい人々の住んでいた地であったが、ローマの5賢帝の一人アウグストゥス帝が改良を命じた。その後5世紀聖マリアを祭った大聖堂が建造され、一時ネストリウス派から疎まれたが、歴代のローマ教皇は聖母マリアを慕い、支持し大聖堂を改修した。

和辻哲郎「イタリア古寺巡礼」は、私には、印象にも心象にも残りがたい。感想はその読み手に拠る。ローマは自分の目で見て、自身の身体の五感で感じるのが一番である。しかし、歳を重ね、聖書を読み、聖パウロの「ローマ人への手紙」を読み、イタリアの古寺名所をゆっくり再訪したくなった。次のローマ訪問はいつになるか。（続く）

［参考資料］
ミッシェラン「ローマ」（The Green Guide）
Good News Bible
「ローマ人への手紙」
インドロ・モンテネリ著・藤沢道郎訳「ローマの歴史」（中央公論者）