日本人とは何か
第112回 球磨川、荒瀬ダム撤去と川辺川ダム
代表理事 小松正之
2023年5月2日
球磨川の三つのダム
日本の三大急流は球磨川、最上川と富士川である。水質と環境調査を富士川で実施した。球磨川水系の水質調査も実施したい。球磨川には数多くダムがあるが3月17日に国土交通省本省と九州地方整備局ならびに現場事務所のご案内を得て、3つのダムを視察した。荒瀬ダム、瀬戸石ダムと川辺川ダムである。荒瀬ダムは2018年3月撤去が終わり、瀬戸石ダムは現存し、川辺川ダムは新しく流水式ダムとして建設される。
荒瀬ダムは熊本県企業局が管理した。高度経済成長期に、熊本県内のダムは北九州工業地帯に電力を供給していたが、荒瀬ダムは熊本県内の工業地帯などに電力を供給する目的で1954年(昭和29年)から電力を供給した。そして高度経済成長を支えた。しかしその地位が低下し、荒瀬ダムの水利権が失効するので、ダムの廃止が決定した。また川の劣化を憂いた地元の方々の撤去への情熱も高かった。
日本初の2018年3月荒瀬ダムの撤去
米国では既に900か所のダムが撤去されたが日本で最初に本格的にダムが撤去されたのが、荒瀬ダムである。荒瀬ダム撤去には紆余曲折があって、撤去賛成と反対が入り混じった。荒瀬ダムは重力式のコンクリートダムで、堤高は25メートルで堤頂長が約210メートルのダムである。熊本県企業局担当者から丁寧な撤去の説明を受けた。また、撤去の経緯とその後の水質モニター報告書2冊を購入した。
荒瀬ダムの撤去の跡 向岸の右岸の5柱跡が撤去跡 2023年3月17日
現在も稼働する瀬戸石ダム
瀬戸石ダムは一時撤去の俎上に上がった。
電源開発株式会社担当官(Jパワー)によると、ダムに関する住民との対話も行なわれ、撤去はないとのこと。昭和40年の水害時には、上流の市房ダムが放水し、下流の瀬戸石ダムが水門を閉じたために、付近の住民は水害を被った。ダム間の連携が取れなかった。また2020年7月の人吉を襲った水害時には瀬戸石ダムにも大量の水が押し寄せダムの堤頂道路が50センチ程度ずれた。それを根拠に瀬戸石ダムの撤去を求める声がある。環境団体は瀬戸石ダムの危険の象徴であるという。ダムの管理者の電源開発株式会社はすると大げさと言う。
2020年7月の大水害で堤頂に30センチ程度ずれが生じた。2023年3月17日著者撮影
流水式川辺川ダムを建設予定
川辺川ダムは上流の五木村の一部を水没させる。流域の多くの樹木と草植物を水没させてしまう。緑の樹木が枯れて保水力を失う可能性がある。蒲島知事が説明に来たが知事が何を言っているのかわからなかったと聞いた。ダムの効果と効用はよく理解できない者が多い。私もその一人である。だからこそ生物・科学的情報と工学計算結果と気象並びに地域の防災全体を合わせて考えてみたい。そのような総合的な情報が、外部に提供されての広い検討会を開催がありがたい。
ダム反対から建設賛成へ
川辺川ダムは、球磨川の支流の川辺川に建設される。五木村の下流に位置する。川辺川ダムの建設にあたっては、このダム建設に慎重な熊本県前知事、反対する人とこれの建設を推進したい国土交通省が長年対立してきた。2020年7月の人吉市を襲った水害で、多くの家屋が浸水した。20名の死者を出した。そのために、蒲島知事は建設賛成に向かった。計画では貯水式ダムから普段は水をためない流水式ダムに設計を変更したが、堤高は109メートルと巨大である。そして、大雨時に蓄える水量が莫大に多い。大雨時の急速かつ大量な貯水でのダムの運営と運用が切に必要とされる。
ところで、今回の訪問で感激したのは、国土交通省の現場専門家が環境保護を極めて高く重要視していたことである。土木専門に加えて鮎の生態、湿地帯と景観のデザインを専攻の専門家が多くいた。期待したい。
川辺川ダムの建設予定サイト 2023年3月17日著者撮影;資料国土交通省川辺川ダム砂防事務所提供
日本人にとってダムとは
日本人にとって、高度成長期が終わり、環境保護が関心事だが、日本人にとってダムとは何か、なぜ必要か、必要ならどう活用するのか。環境に悪影響などの理由で撤去するのか。火力発電、原子力発電に照らして水力は必要かを総合的に考えたい。