日本人とは何か
第115回 ニューヨーク州知事 8月18日放射能汚染水の排出を差止め
代表理事 小松正之
2023年9月6日
ニューヨーク州知事トリチウム汚染水の排出を差止め
2023年8月24日東京電力福島第一原発からトリチウム汚染水が福島県沖の世界3大漁場の1つの太平洋に排出された。
好対照に8月18日トリチウムを含む放射能汚染水をニューヨーク州を流れるハドソン川への排出をキャシー・ホクル州知事はハドソン川への排出を差し止めた。ハドソン川はマンハッタン島を通過し大西洋にそそぐ。州知事は日本とは異なり原発推進目的のIAEA(国際原子力機関)判断を仰がず州法と国内法と議会制民主主義の手続きを経た画期的な意思決定で人類共有の財産である海洋(海洋基本法平成19年法律第33号)排出する日本政府と東京電力とは正反対の判断であった。
ニューヨーク州Cornwall地区麓からハドソン川を望む2023年5月8日 著者撮影
日米の異なる知事、議員、地域社会と住民の力
米と日本知事、議員、住民と環境団体の科学地検、見識と原動力の差がみられる。ハドソン渓谷のコミュニテイ、ニューヨーク市民と州住民は団結して反対に立ち上がり、議会と州知事を動かし民意を受けたニューヨーク州の上院のハークハム議員と下院のレベンバーグ議員など多数の上下両院議員がトリチウム汚染水のハドソン川への放出を差止める州法案を提出・成立させた。
住民が子々孫々まで飲料とするハドソン川の水に低レベル放射能でも許容はできない。ハドソン川に生息するチョウザメとシマスズキは食料とレクリエーションとしても重要で、ハドソン渓谷の景観は極めて重要な遺産(レガシー)との考えである。
インディアンポイント原発解体の請負会社「ホルテック・インターナショナル社」は、ハドソン川への排出以外の方法を探らざるを得ない。
インディアンポイント原発はニューヨーク市近郊
同原発は、人口848万人(2021年)のニューヨーク市の36マイル(58キロ)北にある。原発事故の場合には、多くの都会の住民が放射能汚染を直ちに被る。このこともニューヨーク州民が排出に反対する大きな理由である。同原発第1号機は1962年の稼働開始で既に60年以上を稼働から経過し、第2号機と第3号機は1974年と1976年の稼働であり、50年以上を経過した。同原発は州の10%の電力を供給し、ニューヨーク市で使われる電力の25%が供給されていた。しかしニューヨーク市の電気料金は全米でも最高水準であることがネックであった。
インディアンポイント原発 Googleから転載
原発は経済的に高くつく
ニューヨーク州は、原発が天然ガス発電に比べて割高で、放射性物質の排出は、住民の健康と生物多様性への悪影響を検討し、許容できないと住民とリバーキーパー(法律と環境並びに科学の専門家がメンバーのNGO)が判断して、州議会と州知事を動かした。
マサチューセッツ州も放射能汚染水排出を禁止
7月23日にはマサチューセッツ州環境保護局は同州水質浄化法と施行規則314号により同州プリマス市のピルグリム原子力発電所(2019年5月31日に廃炉決定)の使用済み核燃料プール水などからホウ素など放射性物質の海洋保護区;ケープ・コッド湾への排出の暫定禁止決定を行った。これは、同法と規則は放射性物質を廃棄物にあたるとして排出が禁じた。海洋保護区の監督、監視とコントロールに責任がある同州沿岸域管理局が合意した。
マサチューセッツ州の先行決定が、ニューヨーク州知事の決定にも大きく影響を与えた。
日本は30〜40年以上も排出を継続
日本は、8月24日海洋へのトリチウム汚染水の排出を開始した。メルトダウン(炉心融解)した福島第一原発第1号基と第2号基の高濃度放射性デブリの撤去作業はロボットを導入しても手つかずに近く30〜40年以上の作業継続が残念ながら予想される。コンクリート壁ではなく安価な凍土遮水壁を便宜的に造ったが地下水が溶けた炉心のデブリ―を冷却し汚染が続き作業は順調に進まない。処理後6万ベクレルのトリチウム汚染水は40倍に希釈され、1,500ベクレルとなってもトリチウム海洋投棄絶対量は変わらない。8月24日から17日間で7,800トンを放出するには、40倍に希釈のため312,000トンの海水をくみ上げる。くみ上げと排水パイプは通例殺菌に塩素系化合物を使用する。物理的に排水口でくみ上げると、プランクトン、稚魚と微生物も相当な量と種類が死滅する。塩素化合物と微生物と小動物と海藻の死骸が流れ福島県沖の海洋生態系と漁業には悪影響であると考える(了)。
[参考資料]
ニューヨーク知事Kathy Hochulのプレスリリース
ハドソン川リバーキーパーのプレスリリースリリース
マサチューセッツ州環境保護局資料
インディアンポイント原発に関するウィキペディア
東京電力の公開ネット情報
海洋放出に関するIAEA報告書
小出裕章「原発事故は終わっていない」(毎日新聞出版)2021年3月