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日本人とは何か

第116回 汚染が進む東京湾

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2023年9月28日

東京湾はかつて豊穣の海

東京湾は江戸前の海と呼ばれ、かつては豊かな海であった。18万トンから25万トンの漁獲量を記録した。現在はわずか2万トン台である。

江戸前の水産資源が豊かであったので、江戸の漁師や魚売りは「宵越しの金は持たない」といわれた。江戸前の海に出かけて、魚と貝を取れば、それで銭が懐に入ったことを意味する。それが高度経済成長期まで続いた。しかし、その時代に京浜工業地帯が発展し、たくさんの汚染物質が、河川を通じて東京湾に排出された。隅田川、荒川、江戸川と多摩川が汚染された。公害という言葉が一躍脚光を浴びた。英語は「汚染」であったが、公害の訳は適切ではない。水質や大気汚染を契機にして水質汚濁防止法などが制定された。その後公害規制が一見強化され、東京湾とそこに流入する河川がきれいになったように思えたが、決してそうではなかった。工場排水、都市下水処理技術・施設が導入されたが、これが本当の清浄化をもたらしていない。結果的には汚染が却って水質を変えてしまった。加えて、農業排水が河川を通じて、上流の県から流れ込む。農薬と余分な肥料がいつでもどこでも問題である。国連食糧農業機関(FAO)と米国でもミシシッピ川の流域の大穀倉地帯の農業と畜産業の排水は問題視され、世界的にも農業が汚染源であることは有名である。関東地方も近郊農業と畜産業と酪農が盛んであり、これも関東圏の9都県市協議会でも問題になっているが、有効な対策は未だに立てられていない。公共事業での堤防の建設などで自然の浄化力のある海岸、干潟を失った。


いまでも汚染が進行する東京湾

2022年11月5日海の森公園島、令和島他の目視・視察調査を行った。2023年3月12日に有明埋立地沿岸と海の森公園島の視察を行った。更に2023年3月23日には、東京内湾の水質・環境調査を行った。そして2023年8月28日と9月16日に東京湾で調査を行った。

東京都は独自に環境調査を実施しているが、埋め立てが進行する内湾域の調査地点は少ない。目的地を旧江戸湾の江戸前の海域であって開発と埋め立てが進行している海域に絞った。以下の地点である。

①葛西臨海公園の西干潟(東干潟)と周辺の荒川と新中川と旧江戸川河口
②令和島と中央堤防外埋め立て処分場の沖
③お台場海浜公園
④有明と青海ふ頭などの海域と東雲・有明アリーナ前面海域
⑤荒川と新中川と旧江戸川および葛西臨海公園の西干潟

調査地点は計画では14地点を予定していたが、最終的に13か所・地点で実施した。



2023年3月23日東京湾調査地点とクロロフィル量、濁度(FTU)と溶存酸素(DO)%


調査の結果では汚染が著しい

1)東京内湾は他の日本の海域に比較して著しく濁度(FTU)が高く溶存酸素(DO)が低く、水質は日本の最悪の海域の一つと考えられる。


東京湾と四万十川と広田湾の水質・環境比較 資料:一般社団法人生態系総合研究所


2)中央堤防外埋立処分地、お台場と砂町排水処理場の著しい悪化の指標

①中央堤防外埋立処分場の外側の水質は悪すぎる。海底では汚染指標を示す濁度(FTU)が異常に高く、溶存酸素が1%にも満たず極めて低い。海底ではヘドロが堆積していると推測。コンクリート塀の外で作業船からヘドロの投棄がみられた。

②お台場の水質の悪化の原因は、海浜を囲むコンクリートと石積みが外洋水の流入を弱めて、水交換が不十分なこと。もともと隅田川と品川運河からの流入水の水質が良くないことである。


お台場海浜公園でサーフィンを楽しむ人々 2023年9月20日

3)流入する河川の荒川と新中川と旧江戸川の水質が悪い。また、多摩川(3月に計測)の水質も必ずしも良くない。隅田川は今後調査が必要である。荒川、隅田川、江戸川の中流と上流域の調査が必須。

4)葛西臨海公園の西干潟のヘドロ体積と水質の悪化は、荒川と江戸川水系の悪化した水質と土砂・土壌が原因であるとみられる。また干潟の両翼の構造がコンクリートであり、自然の浄化作用が提供されないことが問題の一部であるとみられる。

5)塩素臭が強い。砂町水再生センターの排水口、浦安市排水口と木場旧貯木場など。


砂町水再生センターの排水口 塩素臭が強烈 2023年9月16日



[注]

1.濁度(FTU)はフォルマジン・タービディティー・ユニットでJIS基準に基づく測定方法で清浄水で0.3FTUである。上記では広田湾が該当する。1FTUを超えると汚いと考えられる。
2.溶存酸素は8~10mg/Lが溶解して100~120%である。93%を下回るとECMOによる酸素吸入が必要とされる。80%水準では酸素が少ないと考えられる。1%を下回る酸素量は東京湾で初めて経験した。


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